ちょぴっとだけ、流血や性的な描写が出てきます。

苦手な方はご注意下さい。
















 お前の嘘なんて、いくらだって見抜けるさ。

 あの時だって、そうだったろ。

 冷淡で賢いお前が、初めて感情をあらわにしたあの日。

 ルカの目玉を手に頬を引きつらせたお前は、確かに15の少年だった。

 



赤の自白。      




 
 最初に誘ってきたのは、ジョルノだった。

 
 足元のふらつくジョルノの手からワインボトルを奪おうと、俺は手を伸ばす。
 
 「飲みすぎだ」

 そんな俺の手をはらいのけ、ジョルノはグイとワインボトルを煽る。
 そしてニッコリ微笑んだ。

 酒のせいか、それとも酒のせいにしただけなのか、そんなのもうどうだっていい。

 
 舌に追い出されたワインが俺の首筋をつたい服を汚す。
 
  
 「・・・ちゃんと、飲んで下さいよ」

 とろりと甘い瞳が弧を描く。
 

 

 2度目のキスは野蛮で獣のように。



 捲り上げた服の下から除いた肌の白さに、俺は噛み付くように口付けた。










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 初めての夜、俺は酷く後悔した。
 15の少年に「忘れろ」など言っても無駄だろう。
 共に夢を追おうと誓った仲間と、超えてはならない境界線を超えてしまった。
 
 俺の頭の中は、情けないことにこの後の適切な対応でいっぱいだった。

 視線に気がつき枕元を見下ろすと、いつの間に起きたのか、ジョルノが俺を見上げている。
 半分枕に顔を埋めた彼の髪があちらこちらに散らばり、彼の背中やシーツの上でキラキラと輝いていた。
 その金と金の間からのぞく、サファイア。
 
 「僕、誰にも言いませんから。」

 呆然と見下ろす俺にそう一言だけつげて、ジョルノは再び瞳を閉じた。







 
 あれから半年。


 俺とジョルノは、度々身体を重ねる関係となった。

 恋人か、と言われたら、わからない、と答えるしかない。
 この関係に名前をつけようという提案が今まで出たことがなかったからだ。
 が、二人きりでディナーを取りにレストランを予約したり、プレゼントを贈ったりなどの経験はない。
 肉体関係に徹している俺達の関係は、世間的にはいわゆる「セックスフレンド」なんだろう。

 この関係が続くのは、なによりジョルノの実績だろう。
 俺は彼より5つも年上だ。
 何食わぬ顔をすることはさほど難しいことじゃない。
 が、15の少年には重荷だろう。
 
 しかしジョルノは、見事に「仲間」を演じぬいていた。
 
 たとえどんなに激しく抱いた夜も、彼は体調不良や感情の揺らぎなど全くおくびに出さなかった。
 一晩に5度も抱いた次の日、平然と仕事をこなしてきたのは驚いた。
 さすがに休暇を与えようと、俺が思っていたのに、だ。

 ともかく、ジョルノがそのように見事な「演技」をするものだから、
 俺達の関係ははためからは全く誰にもわからなかった。
 もちろん俺達から、誰かに話すことなどなかった。

 

 
 金曜日の夜に、必ずジョルノはやってきた。
 ノックは3回、2回目と3回目のノックの間は、一番最初のそれより空けて。
 最初は戸惑っていた俺も、今ではその日に少し良いワインを用意する程に、この「密会」は習慣化していた。
 



 

 


 そして今、俺はそのワインを手に、ことなげにラベルを見ていた。
 そしてまた、テーブルに戻す。
 視線を時計にうつすと、もうだいぶいい時間だった。

 俺は小さくため息をつくと、ベッドに腰掛ける。
 
 先ほどから、その一連の行為を繰り返している。

 顔の前で組んだ手を口元に寄せ、その時初めて俺は苛立っている事に気がついた。


 『なぜ来ねえ・・・』


 今日「も」、ジョルノは来なかった。





 
 先週の金曜日、ジョルノは俺の部屋を訪れなかった。

 ここ半年、律儀に金曜日の11時にやってきていた訪問者の不在に、俺は小さく舌打ちする。
 次の日、平然とカフェを飲むジョルノを見つけ、思わずカッときて詰め寄った。
 少々の苛立ちを見せる俺をジョルノは不思議そうに見上げる。
 何か言おうとして、俺ははたと気がついた。
 恋人でもないジョルノに、俺は何を言おうとしたのか。

 『待ってたんだぞ』 とでも?

 俺達はただの掃き溜め同士。
 来る義務も待つ義務も、互いに無いのだった。
 
 俺は冷静になれといわんばかりに小さくかぶりを振ると、「どうしました?」と尋ねるジョルノを置いてその場を後にした。

 
 


 
 そしてまた今週も、ジョルノは現れなかった。


 先週用意した赤ワインは、ジョルノの好きな甘口のもの。
 味覚だけはお子ちゃまな覇王と、初めてキスをしたあの夜飲んでいたものだ。
 俺はワインを一瞥し、再びドアに目を向けた。

 まるで「待っている」ようだ。

 小さな家鳴りや、風の吹く音に、いちいち敏感になっている。


 まるで「恋」みたいだ。


 俺は、無意識にかぶりを振って、今の思考を振り切った。


 何を言っているんだ、と。



 恋をしているのは、あの少年の方だ。

 俺は、自分を納得させるように幾度も頷く。



 2度目の夜、ドアの外に立ったあいつは「一人で飲んでるんですか?僕も混ぜてくださいよ」と、口元に笑みを浮かべていた。
 
 だけど俺は知っていた。
 
 その手が、小さく震えている事を。


 俺は、ジョルノの気持ちに気づいていた。


 そしてその気づき、は、湿った空間で喉をめいっぱい反りあげ、息も絶え絶えに俺の名前を呼んだ、その時、確信に変わる。



 「・・・チャ・・・ティッ・・・・・・・・・・・・・・・・き・・・・・・・・ッッ」


 
 俺は、気づかないフリをした。








 





 


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 ふと机を見ると、そこにワインボトルは無かった。

 シートの崖から覗き込むと、ベッドの下から緑色のボトルが半分ほど見える。

 その中にあるはずの赤い液体が無いことに気がつき、俺は唸った。

 
 その赤い液体は俺の体内を暴れまわっている。二日酔いという形で。


 俺はゆっくりと上体を起こした。
 時計を見ると、まだ朝7時。
 どんなに酔っても決まった時間に起きてしまう。
 このきわめてA型な血が、幹部としての維持や威厳が、このような時にはわずらわしい。

 俺は水を一杯飲み、酒臭い服を脱ぎ捨てる。
 シャワーを浴びると、少し頭がすっきりした。
 新しい服に着替え、部屋を後にする。

 今日の朝食の担当は誰だったか・・・と思考をめぐらせているところで、はっと気がついた。

 が、気がつくのが少し遅かったらしい。

 本日の朝食の担当者は、律儀にも既にリビングにいて、階段を下りてきた俺としっかり目が合ってしまったからだ。

 
 「おはようございます、ブチャラティ」


 彼は深海のような瞳をきらつかせ、俺を見上げて挨拶した。
 その表情は、先週見たものと全く同じ。
 平然として、まるで俺に無関心であるかのようだ。

 そのしぐさにざわつく胸を必死に押さえながら、俺はゆっくりと階段を下り、「おはよう」と返した。

 「あいつらは・・・他のやつらはまだ起きてないのか」

 「いえ、実はミルクが無くて。フーゴが買いに行ってくれてます」

 ジョルノはこちらを見もせず、皿を並べる作業と同時に淡々と話した。

 「他の人たちはまだ寝てます。ミスタとか。」


 ・・・?


 「なんでミスタがまだ寝てることを知ってる」

 俺の非常に自然に口をついて出た疑問に、ジョルノの皿を並べる手が止まる。
 
 その予想外の仕草に、俺の胸は再びざわついた。


 一瞬の間の後、「勘です」と、らしくない口調で言うと再びテーブルメイキングの作業に戻る。

 俺はジョルノの横顔を眺めていたが、しばらくして静かに呟いた。



 「ジョルノ、なんで昨日来なかった。」


 再び、ジョルノの手が止まる。
 
 金色の巻き毛の一房が、乱れて耳元で揺れている。

 その一房すら、俺の心の騒音を大きくさせた。

 
  
 ジョルノの視線はテーブルのどこを見ているのか、まっすぐでとらえどころがないまま。
 俺は腕を組み、ジョルノの返答を待った。

 
 「先週も来なかったな。」


 無意識か、いつの間にか説き伏せるような口調になっていることに俺は気がつかなかった。
 
 ジョルノは何も言わない。




 
 そういえば、ジョルノの横顔をこんなにもまじまじと見るのは初めてだった。

 美人は横顔が美しいというが、ジョルノは全くそれに当てはまるんだろう。

 通った鼻筋の下に引かれた薄い唇、顎のライン。
 
 うっすらと喉仏が出始めている首筋は、大人になろうとしている少年ならではの青さがあった。

 


 その時、その首筋に、一筋の汗が光ったのを俺は見逃さなかった。






 俺は反射的にジョルノに手を伸ばし、その肩を掴んだ。
 ジョルノは驚いたように瞳を見開いたが、賢い子共なりに俺の行動を察知したようだった。


 俺の顔を、ジョルノの小さな白い手のひらが覆っていた。




 「なぜ拒むんだ。後ろめたいことなんか無いんだろう」


 
 努めて冷静を保った俺の声に、ジョルノの顔がゆがむ。
 
 俺は先ほどの問いかけを、俺の行動をすぐさま後悔した。

 ジョルノの首筋に顔を埋めたような形になっているせいで、あいつの顔は確認できない。

 でも、俺の望むような表情を浮かべていないことは間違いなかった。

 首筋の腱がかすかに動き、ジョルノの口が言葉をかたどろうとしていることがわかる。

 とてつもない不安が背中を走るのを感じながら、俺はジョルノの白い首筋を見た。

 そしてその首筋に見たくなかったものを見て、ジョルノの肩を掴む俺の手はこわばった。


 
 今度はその口を、俺が塞いでしまいたかった。



 「ブチャラティ、僕の汗を舐めずとも。」



 赤い花を転々と咲かした首筋を震わせ、ジョルノは消え入りそうな声で囁いた。







 
 



 「ミスタ、ミスタ、起きてください」



 「ん・・・ぁ・・・んー・・ジョルノか・・・おはよう・・・・」



 「おはようございます。ミスタ」


 
 「・・・お前、泣いてんの?」


 「いいえ、泣いてなんかいませんよ。

 それより布団に入れてもらえませんか?僕、寒くて。」


 ジョルノはミスタの返答を待たずして布団にいそいそと忍び込む。

 ミスタは不思議そうな顔でおかしな恋人を腕に抱き囲んだ。

 首筋がチクリと痛む。

 
 ゴールドエクスペリエンスで治した怪我は、見た目だけしか誤魔化さない。

 ブチャラティに噛まれたその傷は、しばらく癒えそうもなかった。







 



 
 
 あの時、「俺も好きだよ」と口付けていたら、どうなった。

 


 たとえ話の嫌いな俺らしくない発想に、自嘲気味に顔がゆがむ。

 

 


 
 「ああ、俺も好きだよ」





 口内にまとわりつくジョルノの赤い体液の錆臭さが鼻を抜ける。

 

 
 俺の首筋に赤い筋が走り、襟を真紅に汚している。

 
 
  
 初めてキスをした、あの日のように。









 fin.




 大人を狂わすの大好き。

 ジョルノはブチャが好きだった→だから抱かれた。
 でもブチャはジョルノを見くびった→だから捨てられた。
 ほんとはブチャもジョルノが好きだった→でも幹部やら大人やらの壁や理性やプライドが、愛に気づかせずにいた。
 ミスタはジョルノが好きだったから、実は凹んでるジョルノに気がついていや→率直で強引なミスタにジョルノ惹かれる。
 ミスタに取られて初めてジョルノが好きだと気づく→ブチャ崩壊。

 この後は大人で幹部のえげつない反撃が開始します。

 多分幹部の権力使ってジョルノ無理やり抱いたりする。

 
 

 職権乱用ばんざーい!!
 





 

 
 


 





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