桜咲くな。

 この子を連れて行かないでくれ。







unwritten scenario.      




 



 行くな、と言えばよかったんだ。



 そんな事、もういまさら過ぎて口に出す気にもなれん。
 

 黒髪をかきあげ、一息つくと、緩慢な足取りで部屋を後にする。
 通常より、10分も朝食に遅れている。
 これ以上皆と顔を合わすのを避けてもいられない。

 
 コツ、というブチャラティの足音に、普段だったら「
Buona mattina!(おはよう!)」と声がかかるものだが、今日は何も応答がない。
 誰にも知られないように、心の中でたけため息をついた。

 広いリビングの大テーブルには、いつものようにアバッキオとミスタが茶を飲むなり銃の手入れをするなりと、各々の作業にいそしんでいる。
 ナランチャは床の上で、うつむき加減にラジカセをいじっていた。
 いつもと変わらぬ風景だが、まるでこのシーンだけがMUTEになってしまったかのように、ただ奇妙なほどに静かだった。
 階段の半ばでその様子を見たブチャラティが部屋をぐるりと一瞥すると、キッチンカウンターからフーゴが現れた。
 手には焼きたてのトーストを持っている。
 彼もまた、ブチャラティの顔を見ると、小さく「あ」とだけ呟き、しかしそれ以上の言葉はなくうつむき黙った。
 静かに、トーストをテーブルに置くと、もくもくと食事を始める。

 同じようにブチャラティも、何も言わずキッチンに潜る。
 熱いカフェをカップに注ぐと、再びリビングに戻った。
 大テーブルにつこうと、イスを引くと、床のナランチャの背中にイスの脚がぶつかった。
 いつもなら「あ、わりぃ!」と身を引くナランチャが、イスがぶつかった事になんて気がついていないかのように無言のまま。

 「ナランチャ」
 
 ブチャラティはできるだけ小さく、彼の名を呼んだ。
 間違いなく聞こえているはずなのに、ナランチャは微動だにしない。
 その理由をなんとなく察しているブチャラティは、ただイスに手をかけたまま、ナランチャの小さな背中を見つめていた。

 「・・・で」

 ふるふると、ナランチャの肩が小さく震える。
 搾り出すような小さな声は、聞こえ間違えかと思うほどにか細く、しかししっかりと皆に届いた。
 
 「なんで・・・」

 「ナランチャ」

 ブチャラティの呼ぶ声に、跳ね上がるようにナランチャが振り返る。
 その目には、大粒の涙。
 ナランチャのただならぬ様子に、「ダメだナランチャよせ!」とフーゴが駆け寄る。
 しかし一瞬遅かった。

 「なんでだよおおおっっ!!!なんで、なんでだよブチャラティィィッッッ!!!!!」

 小さな体が飛び上がり、ブチャラティの胸元に噛み付いた。
 その拳はしっかりとブチャラティのレースシャツもろともスーツを掴み、今にも引きちぎれそうな程の強さで食い込んでいる。
 幼い顔をくしゃくしゃにゆがめ、大粒の涙をこぼしながらナランチャは声にならない声でヒィヒィと喘いだ。
 フーゴが慌てて「おいナランチャよせ!離すんだ!」と叫ぶが、まったく手を離す様子がない。
 フーゴは助けを求めて振り返るが、ミスタもアバッキオも、何食わぬ顔でその諍いを眺めている。

 「なんで・・・ブチャラティ」

 痛々しい程に切ない声に、ブチャラティはきつく顔を歪める。
 ナランチャの手から力が抜け、ブチャラティのスーツにしがみつくかのようにズルズルと床にへたれこむ。

 「なんで・・・・」

 「ナラン・・・」

 「なんでジョルノを売っちまったんだよ・・・・・・・・・・・・・っっっっ」



 しん、と静寂が戻った。




 


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−








 「ジョータローさんは、僕がジャポネへ行けば満足してくださるんですね」

 窓際、薄いレースのカーテン越しに春の日差しを浴びながら少年は呟いた。

 ジョータローと呼ばれたその男は、詰襟と帽子に半分近く隠れた表情を変えもせず、小さく「ああ」と呟いた。

 「ジャポネはまだ・・・桜は咲いていませんか」

 「・・・来月あたりだろう」

 承太郎の言葉に、ジョルノは小さく口元を緩ませ「僕、まだ本場の桜を見たことがないんです。」と言った。

 そのまましばらく、ジョルノは窓の外を眺めたまま、無言の時が流れる。
 いつもは言葉の少ない承太郎が、痺れを切らし声をかけようかと顔を上げると、
 いつの間にかジョルノはこちらを向いていた。
 逆光で顔はよく見えないが、口元はやんわりと弧を描いている。
  
 「承太郎さん」

 ざぁ、とレースのカーテンがジョルノの細いからだにまとわりつく。


 
 「僕って、そんなに父さんに似てます?」



 金髪の下の碧眼が、企むかのように、細められ、笑みを作った。




 

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 ジョルノの父親については、ほとんど何も知らない。
 ただ、とてつもない力と野望を持った男だったらしい。
 ジョジョの一族とDIOという名の男の因果については、詳しく聞いてはいない。
 だが、その「DIO」について語る承太郎という男の顔には、憎しみと、葛藤と、そして、ほのかな愛情が見えた。
 こんなにも互いしか目に入らず、死を争うことができる相手を見つけられた承太郎を、ブチャラティは少し羨ましく思った。
 
 突然現れた承太郎は見た目どおりの寡黙な男で、必要最低限のことしか言わなかった。
 ただ一言、簡潔に、

 「ジョルノ・ジョバァーナを迎え入れたい」と。

 もちろん、彼はいっぱしのギャング、パッショーネの一員だ。
 そんなに簡単に組み抜けができるわけがない。
 なにより、ブチャラティ自身がそれを許さなかった。

 しかし、承太郎の方が、今回は一枚上手だった。


 「これを」


 差し出された一枚の紙に、ブチャラティは見入った。
 それは確かにパッショーネの幹部たちの承諾書。
 もちろんブチャラティはその幹部達には含まれていないが、少なくとも彼以外の全ての名がそこに連ねられていた。
 そしてその上には、きっちりとしたイタリア語で
Dimissione Un ordine (辞職命令)と。

 「そんなバカな・・・あの幹部達を黙らせるなんて」

 震えるブチャラティの声に、承太郎は目を伏せた。

 
 「彼の父親の遺産と権力は、死しても残るという事だ」


 じゃらりと、目の前に差し出された金銀、宝石。

 
 「1億ある。部下をこっちの都合で引き抜いた代わりだ。」

 その言葉に、ブチャラティの目がギラリと光り、腕がそっと伸ばされた。

 「おい」

 悪寒がヒヤリと首筋を撫でる。
 ブチャラティの静かに燃える瞳を、承太郎の冷徹な程に深い黒が見下ろしている。

 「手ェ出すなら、大人しく受け取ってくれ。だがお前が『そういう意味』で手ェ出すなら、俺は戦いだって厭わねぇ」

 承太郎の背後に、本人に似た凛々しい面持ちのスタンドがユラリと現れ、その底の読めない力量に、ブチャラティは息を呑んだ。
 戦えば、自分の命がないことを明確に裏付ける何かがあった。
 その上「ジョルノの意思でもある」と言われてしまえば、ブチャラティが宝石を手に取るのも時間の内だった。
 



 
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 ジョルノの代わりに両腕いっぱいの宝石を持って帰ったブチャラティを、仲間達は蔑んだ。
 
 ミスタも、アバッキオも、フーゴも、信じられない様子で立ちすくむブチャラティを見つめた。
 唯一、ナランチャだけが「ジョルノを金で売り払ったのかよおおお!!!」と食ってかかった。
 ストレートで、正確なその表現は生々しく5人の心に響き渡り、他の誰も何も言えなかった。
 
 「ジョルノが望んだんだ。幹部達の手もまわってる。俺達にはどうしようもできない。」

 「ばかやろぉおぉ−−−ッ!!ジョルノが、ジョルノがギャングをそんなに簡単にやめるかよおォー−−−ッッ!!」

 確かにそうだ。
 黄金のような夢を語ったあの少年が、ギャングスターになる夢をいとも間単に諦めるとは考えがたい。
 ミスタも、アバッキオも、フーゴも、自分と同じ気持ちに違いなかった。

 そして自分は、ジョルノに直接確認するわけでもなく、ためらうわけでもなく、金を手に取った。

 権力に屈した事、金に屈した事、そしてなによりも、あの承太郎に恐れを抱いた事・・・いまさら悔いても取り返せないものばかりで、
 ブチャラティはその唇に血が滲むほど、戒めをこめて強く強く噛んだ。



 それが二日前のこと。




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 所変わって、ジャポネ(日本)。


 
 この日ジョルノは承太郎に連れられ、早朝から奥深い森へやってきた。
 他の家族の誰も起こすまいとする承太郎の様子に、ジョルノはあえて何も聞かずに付いていった。
 まだ1日しかこの男とは一緒にいないが、その口は果てしなく重く、聞いても答えてくれないであろう事が容易に想像できたからだ。
 
 朝露で濡れた地面が、サクサクと小さな音を立てる。
 もう随分歩いている。
 しばらくすると、承太郎の脚が止まった。
 「こっちへ来い」と目配せされたジョルノが承太郎の横に進み出ると、そこには小さな墓標があった。
 一見ただの岩に見えるその墓標には名前は刻まれていなかったが、適度に綺麗にされている形跡があった。
 ジョルノは何も言わず、その人目を避けるようにたたずむ石をじっと見つめる。
 朝の冷たい風が、さわさわと足元を流れる音だけがやけに大きく聞こえた。

 「・・・DIOだ。」

 小さく、自身に言い聞かせるかのようなその声に、ジョルノは承太郎を見上げた。
 帽子の下からのぞく切れ長の瞳から、承太郎の隠し切れない気持ちを、ジョルノは察した。
 その瞳に込められた、憎しみ、葛藤、愛情、そして、寂しさ。

 ジョルノは、一歩前で進み出て静かに片膝をつくと、墓標に手を合わせた。

 
 (パードレ、初めまして。)


 背中に承太郎を感じながら、ジョルノは目を閉じる。

 
 (こんなに愛されて、あなたは幸せだったでしょう?)


 

 引き返す道のりで、承太郎は静かに念を押した。

 「この場所のことは、誰にも・・・」

 「わかってます。言いませんよ。」

 詳しくは聞いていないが、自分の父親はいわゆる「相当キちゃってる極悪人」だったらしい。
 承太郎曰く「不器用なヤツだった」らしいが、きっとそんな評価をしているのは彼だけだろう。
 だからこそ、これは承太郎とジョルノの秘密なのだ。
 
 (それに)
 
 承太郎の横顔をちらりと見上げる

 (承太郎さんとパードレの逢引を邪魔するのもなんだしな)

 彼が自分をこの場所に連れてきてくれた事にだけ、ジョルノは心の中で感謝した。
 
 承太郎はパードレといい勝負だと言えるほど、不器用で無骨な男だが、いい人間であることは間違いなさそうだった。
 だからこそ、今回ここへ来ることを了承したのだ。
 ジョルノは脳裏に浮かんだパッショーネのメンバーの顔をひとつひとつ思い出しながら、前方を行く承太郎の背中に声をかけた。


 「僕が、休職という扱いにしてもらったというのは嘘でしょう」

 ざくざくと軽い音を立てるその足取りに変化は見られなかったが、ジョルノは確信を持っていた。
 
 (承太郎さん、あんたはいい人だ。背中が嘘だと言ってます)

 「・・・すまん」

 重い沈黙の後、承太郎の消えそうなほどに小さく、重い声が返ってきた。
 ジョルノはかぶりを振った。

 「いえ、僕もパードレに会いたかった。ジャポネの桜も見れますしね」

 それに、


 それに、『あの人』がもしかしたら金を受け取らないかもだなんて。
 戦ってくれるんじゃないかって。



 ギャングに淡い期待を抱いた僕が間違ってたんだ。



 そんな事は、口にも出さなかったけれど。
 





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 その晩、ジャポネのワインは口に合わないと顔をしかめたジョルノが早々に寝床に引き上げた後、 承太郎は窓の外を眺めていた。

 
 誰かの声を待っているかのように、月を眺めたまま微動だにせず。

 
 しばらくして、承太郎は口元に笑みを浮かべると、頭をその大きな手でバリバリと掻き、

 「やれやれだぜ・・・」と、想い人の形見が眠る上階を見上げた。


 

 そうだな、花京院。俺ぁ、いったい何やってんだか・・・。




 承太郎の独り言は、真っ暗な床に落ちて消えた。






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 イタリア。




 ジョルノが居なくなって1週間が経った。

 仕事は各自、相変わらずそつなくこなしている。

 しかし、以前のブチャラティチームとは雰囲気はまったく違っていた。

 ミスタやアバッキオは普段通り会話をする。フーゴはまわりの雰囲気を良くしようとしているのか、無理な明るさが空回りしている。
 ナランチャは未だにジョルノのことを気にしているようで、ブチャラティとの接触を必要最低限にしているのが感じられた。
 各自ジョルノの件を自分なりに消化しようと努力はしていたが、未だぎこちなさは取れないままだった。

 先週の報告書に目を通しながら、ブチャラティは床に目をやった。

 当初、パッショーネに献上し更なるステップアップを計ろうとしていたあの金は、結局手をつけることもできず床下に眠っている。
 権力のために利用しようという考えも、ギャングらしい冷徹さに徹しようと無理をしていたに過ぎず、
 ジョルノを手放したことを最も後悔しているのは他でもないブチャラティ自身だった。
  
 
 「・・・少し休むか」


 カフェを求め、階段を下りると、無人のリビングはしんとしていた。
 気がつけば日が傾きかけている。
 
 いつも、仕事を一番に仕上げて帰ってくるのはジョルノだった。
 日が傾く前には既にこのリビングで、ソファに腰掛け新聞を読んでいたものだ。 
 
 「報告書、そこに置いておきますよ」

 新聞から目を離さず、素っ気無く告げるジョルノの姿は、今はもうなかった。


 
 (なんだかもの凄く静かだな・・・)


 
 思えば、この時間帯に自分でカフェを煎れるのも久しぶりだ。
 
 「カフェ淹れますか」
 
 いつも先にリビングにいるジョルノが、ブチャラティの分を淹れてくれていた。
 最年少の癖に、可愛げもなく媚びる様子もない生意気な少年だが、
 誰よりも強い意志を持ち正義感に溢れ、そして優しいのをブチャラティは知っていた。
 ただその表現が出来ないだけで。

 
 くそ。

 
 ブチャラティは一人ごちた。

 
 『恋しい』という感情は、日が経てば経つほど、たちの悪い毒のように全身を蝕んでゆく。
 時が忘れさせてくれる、なんて発想をして初めて、自分はあの少年をどれだけ想っていたかを知った。
 
 自分もナランチャのように泣いて喚いて「俺、ジョルノが好きだったんだぁ」と叫べればいい。
 
 『大人』である事が、『幹部』である事が、自分に無意味な強がりをさせている。
 でもきっとそれは、『部下』だから意見できないミスタやアバッキオ、フーゴも、立場は違えど同じことだろう。
 本当ならば、ブチャラティを罵倒したいに違いない。
 ブチャラティの中途半端な覚悟が、仲間内に亀裂を作ったのは明確だった。




 ジョルノ。




 自分で淹れるカフェは苦すぎて、ジョルノの淹れるような味にはならなかった。
 
 カフェの渋さに顔を歪め、カップをテーブルに置いた。
 波打つ茶褐色の液体の表面に、金髪の少年の後姿がうつる。
 生意気な目をして、上司ですら利用してやろうという裏の顔が見え隠れする腹黒さ。
 でも、その瞳は溺れる程に深い青で、よくメンバーでなくとも多くの人を魅了していた。
 かくいうブチャラティ自身も、間近で顔を合わせた時には息を呑んだ。
 そう、涙目のルカの件で初めてであったメトロの中。


 
 「あんたば僕の仲間になるんです」



 と、猫のような瞳で見上げられたあの時から、



 ずっとずっと、惚れていたのに。





 目の奥に重い疲れを感じ、自然とブチャラティは上を向いた。
 



 カラン。






 「?」

 ドアの開く音に、ブチャラティは顔を向けた。
 疲れ目で一瞬誰だがわからず、「ナランチャか?」と呼びかける。
 が、その思考は一瞬にしてストップがかかる。
 信じられないと、ブチャラティは入り口に立つ人物に目をこらした。


 

 「初めまして、ジョルノ・ジョバァーナと言います。」




 金髪に、碧眼。意思の強そうな視線をこちらに向けて、ここにいるはずのない人物が立っていた。
 夢かと思い、ブチャラティは何度も目をしばたたかせたが、そこにいるのは確かにジョルノだった。


 「ジョルノ、お前」


 何をしてるんだ、と言いたげな、しかし声の出ない幹部の元へ、ジョルノは一歩一歩近づく。
 

 「手間取りましたよ。ポルポが死んだ今、どこに行けば試験が受けられるのかわからなくて。」
 
 
 ぐい、と差し出す詰襟には、パッショーネの試験に合格した証、入団バッヂが光っている。
 未だに信じられないという表情を浮かべるブチャラティに、ジョルノは意地悪く微笑んでみせた。
 
 「ブローノ・ブチャラティさんですね、今日からあなたの元に配属されました。宜しくお願いします。」

 「ジョルノ・・・お前、ジャポネに行ったんじゃ・・・」

 「ええ、でも日本のギャング・・・ヤクザって言うんですけど。僕は目立つからダメだって言われてしまって。トップを目指すならやはりイタリアかと思いまして。」

 
 そして一息、言葉を区切ると、ブチャラティにぐいと顔を近づけ、今度はいっそう意地悪なそして淫猥な笑みを浮かべて言った。


 「それに、あなたが僕を恋しがっているんじゃないかと思いまして」


 その言葉をさえぎるかのように、ジョルノは掻き抱かれた。
 いつもは冷静沈着で温厚なブチャラティに、野蛮な抱き方をされてジョルノはほくそ笑んだ。
 
 
 「誰が恋しがってるって??上司にナメた口のききかたはよせ」


 行動と言動がまったく正反対の上司に、ジョルノはいよいよ笑いが漏れそうだったが、なんとか耐えつつ「はい」と言った。
 それでもやっぱり笑ってしまって、語尾が若干跳ねてしまったが。

 ひとしきりジョルノの首筋を味わったブチャラティは、その髪に顔をうずめたまま静かに「ジョルノ、すまなかった」と呟いた
 ジョルノはその謝罪を綺麗に無視し、ブチャラティの肩に顔を埋めたまま声をあげた。


 
 「ところでブチャラティ、あなたが大金を隠し持ってる事を他の幹部にバラされたくなかったら、

 今夜僕をこの町一番のレストランに連れていって、極上のワインとモッツァレラとバジルたっぷりのマルガリータを奢って下さい。」


 
 しばらくの間のあと、「ああ」と答えたブチャラティの声は、柔らかく、彼の微笑みがジョルノの金髪の上を滑ってゆくのがわかった。
 





 「もちろん、ミスタや、アバッキオや、ナランチャや、フーゴも一緒です」


 「なにっ!!二人じゃないのか!!!!」


 「当たり前です。なに考えてんですか。セクハラですよ」



 
 1億もあるんだから、当然でしょう。
 
 そう付け加えて、ジョルノはキッチンへと姿を消した。

 
 
 「まったく、あなたは一人でコーヒーも淹れられないんですか」



 その言葉に、ブチャラティはふふ、と笑みをこぼし、「ああ、そうなんだ」と答えた。






 


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 「承太郎さん、どういう事でしょうか」

 「俺の勝手で、お前を振り回した。すまん。」

 「・・・僕は覚悟を持ってジャポネに来たんですよ。」

 「ああわかってる。しかし、覚悟の出来てないヤツの元からお前を奪った。アンフェアだった。」

 「覚悟の出来てないヤツ?」

 「あの、黒髪の幹部に圧力をかけたのは俺だ。やり方が汚かったな。」

 「それがギャングです。汚いも綺麗もない。」

 「俺はギャングじゃねえ。その上嘘まで吐いた。」

 「パードレに会わせてくれるというのは、嘘ではありませんでしたよ」

 「休職というのは嘘だった。もっとも、最初はそのつもりだったが」

 「え」

 「お前はやはり、DIOに似ている・・・つまらねぇ欲が出たんだ。自分にあきれるぜ。」

 「・・・」

 「黒髪の幹部は、俺を戦おうとしたぜ。あの目は本気だった。俺も、あのくらい自分に素直だったらよかったんだがな」

 「ブチャラティが・・・」


 「だからイタリアに帰れ。俺の勝手ですまねえ。お前は、あいつの側で夢を追え。」

 
 「俺の予想じゃ、あの黒髪の幹部、泣いてるかもしれん。」



 さすがにジョルノは吹き出した。
 泣いてる、なんて事はまずないだろう・・・けど。



 


 
 

 (案外、それに近かったかもしれないな)

 
 机で新聞を広げ、柔らかい笑みを浮かべるブチャラティの横顔に、ジョルノはほくそ笑んだ。
 
 18時。


 
 もうそろそろ他のメンバーも帰ってくるだろうから、今日だけはサービス。
 全員分のカフェを淹れて、待っててやることにしよう。















 fin.




 長い!!!!!!!!!!!!!!

 yako、実は1部と5部しか読んでないので承太郎のキャラがぜんぜんつかめてません・・・
 憶測です。すみません・・・・承太郎ファンの方、石投げないで・・・






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