「ジョルノ」

 ブチャラティはいつも、秘め事みたいにキスをする。










public affair  ■■










 「ぶっ、ぶちゃら・・・・」


 むぐぅ、という擬音と共に、残りの単語は飲み込まされた。

 こういう時、どんな抵抗をしたって無駄なんだ。
 むしろ抵抗するとこの人は燃え上がるから、穏便に済ませたいなら黙っているに限る。
 僕は借りてきた猫のごとく、されるがままに口内をまさぐられた。
 目は、もちろんきっちり閉じて。
 
 まぶたに、彼の視線が突き刺さる。

 キスのときくらい、目を閉じればいいのにこの人は。

 一瞬、どんな顔をしているのか確認してやろうかと思ったけど、やめた。
 
 それが彼の狙いでもあるからだ。



 やっと開放されて、僕は大きく息をつくと一応彼を睨んでおいた。
 「一応」というのは、睨んだってなんの効果もないことを知っているからだ。
 でも「一応」睨んでおく。おきまりの儀式みたいなものだ。

 
 「・・・あのですね。」

 「ん?」

 「あなたもいい歳なんですから、こういう事はあまり、こういうところでは・・・」

 「どういう事をどういうところで?」


 ああもうほら、そうやって茶化して、挙句の果てにどさくさに紛れてまた顔を近づける。
 2度目はないですよ、と言いたげに僕はブチャラティの顔に手を押し付けた。
 ふふ、と小さな笑みをこぼし、かわりに僕の手のひらに口付けると、すっと彼は立ち上がった。
 
 「手を貸そう」

 「は?」

 「立てないんだろう?」

 ・・・立てますよ!!

 こういう言葉のひとつひとつに敏感に反応してしまうあたり、僕も子供っぽいとは思うのだが仕方ない。
 この人に大しては免疫もなければ対応策すらない。
 少しムキになったことを誤魔化すように、僕はすばやく立ち上がる。
 が、ここがどこかを忘れていた。


 ゴッツ!!!!!!!


 「〜〜〜〜〜!!!!!!」

 
 頭頂部に走る鈍い痛みに、思わず目の前が真っ白になった。
 

 「あああああっっ!!!ジョルノおめー何やってんだよぉ〜!!」

 「ちょっとジョルノ大丈夫〜??」

 「カフェこぼれたか?俺このズボンおろしたてなんだぞ、てめークソガキ何やってんだ!」

 ミスタの慌てる声、ナランチャの心配そうな声、アバッキオの怒声。

 次々に降りかかる声という声に、頭を抱えながら僕はうずくまったまま押し黙っていた。
 頭の痛みがある程度引き、自分が何をしたか理解し始めたころ、ころあいを見計らったかのような間延びした声が降りかかる。


 「大丈夫かジョルノ?ぼんやりしてたのか?」

 
 ああ、もう畜生。この人は。

 恥ずかしくて、顔が上げられない。

 きっと幸せそうな笑みを浮かべて、僕を上から眺めているんだ。
 

 「ジョルノー?大丈夫??頭打ったのか?書類はブチャラティが拾ってくれてたから無事だぞ。」

 
 テーブルクロスがめくれ、ナランチャのあどけない顔が覗き込む。
 その横に写る白いスーツの足元すら、笑っているように見えて腹立たしい。
  

 「ジョルノ?」

 「・・・頭を打ったみたいなので、しばらくこのままで・・・」

 「ジョルノ顔赤いぞ?」

 「・・・気のせいですよ」


 コツコツコツ、と彼の足がドアに向かうのを眺めている。
 多分この後氷なんかを持ってきて、「冷やすといい」なんて大人ぶったこと言うんだろう。
 なんて上司だ。なんて幹部だ。
 
 



 彼は秘め事みたいにキスをする。

 そのくせ危険なゲームも味わいたがる。


 
 街頭の陰、裏道、本棚の脇、ソファ、シャワーカーテン、ビニール傘。




 後はたとえば、テーブルの下。








 fin.







 見えそうで見えないところでするキスはいい。
 見えそうで見えないところでキスしている人を見るのもいい。

 ジョルノが珍しく15歳らしい。






 
 





ブラウザでゴーバック。