「ジョルノ」 ブチャラティはいつも、秘め事みたいにキスをする。
「ぶっ、ぶちゃら・・・・」 むぐぅ、という擬音と共に、残りの単語は飲み込まされた。 こういう時、どんな抵抗をしたって無駄なんだ。 むしろ抵抗するとこの人は燃え上がるから、穏便に済ませたいなら黙っているに限る。 僕は借りてきた猫のごとく、されるがままに口内をまさぐられた。 目は、もちろんきっちり閉じて。 まぶたに、彼の視線が突き刺さる。 キスのときくらい、目を閉じればいいのにこの人は。 一瞬、どんな顔をしているのか確認してやろうかと思ったけど、やめた。 それが彼の狙いでもあるからだ。 やっと開放されて、僕は大きく息をつくと一応彼を睨んでおいた。 「一応」というのは、睨んだってなんの効果もないことを知っているからだ。 でも「一応」睨んでおく。おきまりの儀式みたいなものだ。 「・・・あのですね。」 「ん?」 「あなたもいい歳なんですから、こういう事はあまり、こういうところでは・・・」 「どういう事をどういうところで?」 ああもうほら、そうやって茶化して、挙句の果てにどさくさに紛れてまた顔を近づける。 2度目はないですよ、と言いたげに僕はブチャラティの顔に手を押し付けた。 ふふ、と小さな笑みをこぼし、かわりに僕の手のひらに口付けると、すっと彼は立ち上がった。 「手を貸そう」 「は?」 「立てないんだろう?」 ・・・立てますよ!! こういう言葉のひとつひとつに敏感に反応してしまうあたり、僕も子供っぽいとは思うのだが仕方ない。 この人に大しては免疫もなければ対応策すらない。 少しムキになったことを誤魔化すように、僕はすばやく立ち上がる。 が、ここがどこかを忘れていた。 ゴッツ!!!!!!! 「〜〜〜〜〜!!!!!!」 頭頂部に走る鈍い痛みに、思わず目の前が真っ白になった。 「あああああっっ!!!ジョルノおめー何やってんだよぉ〜!!」 「ちょっとジョルノ大丈夫〜??」 「カフェこぼれたか?俺このズボンおろしたてなんだぞ、てめークソガキ何やってんだ!」 ミスタの慌てる声、ナランチャの心配そうな声、アバッキオの怒声。 次々に降りかかる声という声に、頭を抱えながら僕はうずくまったまま押し黙っていた。 頭の痛みがある程度引き、自分が何をしたか理解し始めたころ、ころあいを見計らったかのような間延びした声が降りかかる。 「大丈夫かジョルノ?ぼんやりしてたのか?」 ああ、もう畜生。この人は。 恥ずかしくて、顔が上げられない。 きっと幸せそうな笑みを浮かべて、僕を上から眺めているんだ。 「ジョルノー?大丈夫??頭打ったのか?書類はブチャラティが拾ってくれてたから無事だぞ。」 テーブルクロスがめくれ、ナランチャのあどけない顔が覗き込む。 その横に写る白いスーツの足元すら、笑っているように見えて腹立たしい。 「ジョルノ?」 「・・・頭を打ったみたいなので、しばらくこのままで・・・」 「ジョルノ顔赤いぞ?」 「・・・気のせいですよ」 コツコツコツ、と彼の足がドアに向かうのを眺めている。 多分この後氷なんかを持ってきて、「冷やすといい」なんて大人ぶったこと言うんだろう。 なんて上司だ。なんて幹部だ。 彼は秘め事みたいにキスをする。 そのくせ危険なゲームも味わいたがる。 街頭の陰、裏道、本棚の脇、ソファ、シャワーカーテン、ビニール傘。 後はたとえば、テーブルの下。 fin. 見えそうで見えないところでするキスはいい。 見えそうで見えないところでキスしている人を見るのもいい。 ジョルノが珍しく15歳らしい。 |