反り上げた白い喉元。 思い切り噛み付いて、 「呼んで」 全てを終わらせる権利を、君に捧ぐ。
「ジョルノ」 「ジョルノ」 「んっ・・・・ジョルッ・・・・・・・く・・・・!!」 さっきまでちっとも余裕なんかなさそうに、 必死に俺の名前を呼んでたくせに、 最後の最後の最期の最後 一番呼んでほしいときに、お前は名前を呼んでくれない。 お前の名前をうわごとみたいに繰り返す、 白濁した世界の中で お前のカオが、見えないよ。 「ジョルノ」 沈黙 「ジョルノ!!」 「あ、はい。なんですか??」 間延びした声と間抜けた反応に、ミスタの眉間に皺が寄る。 ジョルノのこの反応はいつも通りなのだが、それにしたって気に食わない。 (聞こえてるくせに、二度も呼ばせんなっつうの・・・) ジョルノの、こういう天邪鬼なところが時折癇に障る。 それでも懲りずに何度も同じことを繰り返す俺は、なんなんだろう。 (嗚呼、くそっ。考えたってキリがねぇってわかってんのにまた考えちまってる) 心の中で一人ごちる。 この一連の流れが定番になりつつあることに、つい最近気がついた。 全くもって好ましくないこの状況が定番になっている、という、またしても好ましくないこの現状を、 破する方法なぞ、残念ながらミスタの頭では編み出せない。 ちっ、と、自分自身に舌打ち一つ。 視線を感じ、横目で隣の人物を確認する。 真っ白な肌に、金髪を好き放題に散らばせて、問題の人物がこちらに上半身だけ向けている。 そこから覗く真っ青な宝石が二つ。 ぽってりとした赤い唇が、わざとらしく薄く開かれている。 金の巻き毛は彼の顔を包み込むように流れ、鎖骨で綺麗な円を描く。 金の房に見え隠れする、白いキャンバスの上の赤い花々。 純粋で無垢にも見える表情と、首まわりの鬱血のコントラストが、ミスタの目にはより性的に写った。 「・・・呼んでおいて」 青い目をきゅっと渋らせ、 不服そうに、唇を尖らす。 普段は絶対に見せない、そのすねたような仕草が技術だとわかっていても、 欲情に逆らえない男は、その唇に吸い寄せられるように、そっと顔を寄せる。 ジョルノは最初、顔を反らしてキスを拒む。 それがただのお遊戯だという事を知っているミスタは、その顔をそっとこちらを向ける。 キスの前に、ジョルノはミスタの下唇を、軽くかんだ。 ジョルノの癖だ。 ひとつキス。ふたつキス。 みっつめのキスで、ジョルノはミスタを押しやった。 「・・・なんですか。」 「なんだって、なんだよ。」 「・・・なんでもありません」 綺麗な顔が、薄くひくつくのを、ミスタは見逃さない。 そらした小さな顔を抱きかかえ、半ば無理やり、キスをした。 鼻先だけをひっつけて、すり、すり、すり、と、鼻先のキス。 その仕草の何かが引っかかるのか、ジョルノは小さな手のひらで、 ミスタのたくましい胸板を押しやった。 いよいよ険しいジョルノの表情を眺め、ミスタは口元が緩むのを感じた。 さあ言えよ。 『どこでそれを?』 と。 さあ呼べよ。 名前を。 俺のでも、あいつのでも、 お前の望むように。 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ らしくないタバコをくわえる。 目の前の男は、タバコをそっと口元から外すと、 胸元からジッポを取り出す。 しゅぼ、 と鮮やかな炎が二人の間に灯される。 「いいのか、本当に」 「今更」 「まだ、このままでも・・・やはり・・・」 「やめろよ、こんなときにまでお優しい幹部ぶるのはよ。」 半ば呆れた口調でミスタは呟く。 目の前の人物のまっすぐな視線を、眉間に感じた。 「・・・俺も、お前も、このままじゃ苦しいに変わりねぇんだからよ」 ミスタの言葉に、ブチャラティも静かに目を伏せた。 「・・・恨みっこ、なしだ」 ブチャラティが静かに差し出す青白い炎に、そっと口元のタバコを寄せる。 普段は二人とも吸わないタバコの煙が、真っ暗な空に昇ってゆく。 何も言わずに、二人はその場から立ち去った。 『賭けをしよう』 ブチャラティがそんな事を言い出したのは、 なんの変哲も無い天気の良い日。 昼飯を買いに出た、小道のど真ん中でだった。 前々から、避けられない話題だとは思ってはいたが、 まさかこんな時にこんな場所で、こんな突拍子もなく持ち出されるとは思わなかった。 ブチャラティの行動に、ミスタは目を見開き驚きの表情を浮かべたが、 すぐさま口元を引き締め、後ろを歩くブチャラティに向き直った。 「・・・いいと、思ってだんだ。このままでも。」 ブチャラティは苦しそうに呟いた。 「でも最近のあいつは・・・目に余る」 ミスタはしっかりと、頷いた。 どちらが最初だったかなんて、もはやわからない。 ただ間違いないことは2つ。 ブチャラティとミスタが、同じ人物を愛したこと。 その人物のことを、他人以上に二人とも、よおく、知っている事。 ・・・太股の付け根にある小さなホクロの存在。 絶頂に達するときの、小さくまぶたが痙攣する癖。 快感にあえぎながら、必死に呼吸を繰り返すその喉の蠢き。 そのくらい、「彼」に関する「全て」を、知っている事。 ジョルノは決して、二人の男を跨いでいることなどおくびにも出さなかった。 しかし皮肉か、不思議なことに、当人達は直感だけで、お互いの存在を知ったのだった。 ジョルノに触れる仕草、声、表情。 ただそれだけで。 「「ああ。お前もか。」」 二人は互いが同じ立場にいることを知り、立ち尽くしたまま見つめあった。 普通ならば、恋人を責めるんだろう。 普通ならば、相手の男と拳を交えるんだろう。 今までの自分達なら、そうしてた。 でも、「ジョルノ」は別だ。 鬩ぎあって、罵倒しあって、土にまみれ、相手より早く立ち上がり、勝利のカップを手に入れても、 相手が「ジョルノ」ならば、きっと二人共切り捨てる。 どちらが勝っても、ジョルノは二人を捨てるだろう。 『無駄なことは嫌いなんです』 冷酷なほどに美しい笑みを浮かべたジョルノの姿が易く想像できた。 ブチャラティとミスタは向かい合い、見つめあいとも睨みあいとも呼べない静かな空間を共有していた。 共通の想いを抱いていることを感じあった時、ふたりは何事も無かったかのように背を向け、立ち去った。 『『俺もお前も、ジョルノを失うのが怖い』』 ゆがんだ共有関係は、しばらく続いた。 『賭けをしよう』 ブチャラティがこんなことを言い出したのは、耐えられなくなったからだろう。 それはミスタも同じだった。 全身に口付ける。 耳の裏にも、足の裏にも、彼の持つ秘められた場所、ありとあらゆるところに口付ける。 相手が知らない場所を探そうとして、自分だけのテリトリーを見つけたくて。 『ここも』 『ここも』 『ここでさえも』 『『あいつも知っているんだろ』』 そう思うと、だらしなくも泣いてしまいそうになる位、苦い嫉妬を味わった。 自分ひとりのものにしたくて、何度も、何度も、突き上げる。 5回抱いたら、一度くらい、俺のことだけを考えてくれているような気がして。 そう思えば幸せだった。 でも、5回抱いて、1度でも、あいつのことを考えているんじゃないかと思うだけで、 泣き崩れそうになる嫉妬を、駆け抜ける快感でジョルノの名前を絶叫する事で誤魔化した。 それに耐えられなくなったタイミングは、ほぼ二人同時だった。 ブチャラティの持ちかけた賭けに、ミスタは静かにうなずくことで乗ったことを示した。 『ジョルノ、お前に全てを終わらせる権利を与える』 賭けは簡単。 いちども、繋がっているときに相手の名前を呼ばないジョルノが、 『ブチャラティに抱かれているときにミスタの、ミスタに抱かれているときにブチャラティの、 名前を呼んだら、呼ばれたほうの、勝ち』 賭けの契約は、タバコで。 二人共威厳を保ったつもりでいたけど、本当は震えを誤魔化すのが難しいほど、怖かった。 --------------------------------------------- そして今夜、ミスタは賭けに出た。 みっつのキスと、鼻先のキス。 (これは、あいつの癖だ) 時折セックスの後に、ジョルノがするこの仕草が、ブチャラティから来ているものだと気づいていた。 人気のないキッチンで、ブチャラティがキスをねだるジョルノにしてやっているのを見たからだ。 あえてジョルノを挑発するようなことをしたのは、ミスタなりの考えがあった。 (ジョルノは賢い。きっと気がついただろう。) その証拠に、今腕の下にいるジョルノの顔には、険しい表情が浮かんでいる。 (さあ、選べ。ジョルノ。) いい加減埒の明かないこの賭けに、ミスタは半ばうんざりしていた。 終わらせてしまいたい。そう思った。 もちろん、ジョルノを自ら手放すことなんてできない。 だから、無理やり逃げ道を塞いだ。 ジョルノを追い詰めた。 ブチャラティとの関係を知っている事を示す事で、選択を迫った。 そして何より、ミスタならではの算段があった。 (俺を捨てることでブチャラティに俺との関係がバレるのを恐れるなら・・・ジョルノは俺を取る) 我ながら汚い、と思った。 しかし手段は選んでいられない。 さあ呼べよ。 俺の名を。 ジョルノ、お前を一番愛しているのは、この俺だ。 険しいジョルノの顔が、みるみるうちに呆けてゆく。 自分の思惑通り、ジョルノが全てを察したに違いなかった。 白く細い肩が震えている。 (何も知らないと思ったか、俺が。年上をナメたらダメだぞジョルノ) そう、これはずっと自分とブチャラティを股にかけていたジョルノへの、ささやかな復讐も兼ねていた。 怯えるジョルノの姿がいやに扇情的に移り、ミスタはごくりと喉を鳴らした。 しばらくして、薄く開かれたジョルノの唇が、小さく振動を繰り返す。 「ん?なんだ?」 つとめて優しく聞き返す。 しかしジョルノは声が出ないのか、酸素を求める魚のように、唇をせわしなく動かすだけ。 「??」 何かを伝えたい様子のジョルノの唇をミスタは優しい目で見つめた。 それが愛だと信じて。自分の名を呼んでいるのだと信じて。 はたはた、と、暖かい涙がジョルノの目から溢れ、シーツに染みを作るころ。 「・・・・!!!!!」 それが愛でないことを知った。 ---------------------------------------------- 「やられた」 「ああ」 ブチャラティとタバコを交わすのは、これで2度目だ。 吸いなれないタバコをただ弄ぶように指先に躍らせると、白い煙が踊るように濃紺の空に舞い上がる。 苛立ちを誤魔化すために吸ってはみたが、やはり合わないものは合わない。 煙を受け付けぬ肺がキリキリと締め付けられるようで、ブチャラティは顔をしかめた。 「ブチャラティ、お前ちょっと汚ねぇよー」 「何を言う、結局お前も同じテを使っただろうが」 ふん、と鼻をならし小馬鹿にした視線をよこす幹部に、ミスタは言い返す気力もなくため息をついた。 「あれがお前の癖じゃなかったとはなー」 再びため息。 「同じく、だな」 ゆらゆら、と煙が舞う。 「みっつのキス、鼻先のキス」 「最初のキスを拒む癖、下唇を甘噛みする癖」 ((おまえのじゃなかったとはなーーーー)) 最後のセリフは、口に出すのはなんだかお互い癪だったので心の中でだけに留めた。 どうして、知ってるんですか。 男の腕の下、ジョルノの唇は声も出ず呟いた。 忘れたいのに、忘れたいのに。 あの人を忘れたいのに。 僕の夢のために、誰かの希望のために倒れた、ひとりぼっちのあの人を。 なのに、どうして二人共知ってるんですか。 ( ) 吐き出すように、助けを求めるように呟いたのは。 今も終わらぬ死に自ら葬った、紅色の髪の、あの人の名だった。 余談。 「で?」 「なんだ」 「お優しい幹部様は繊細だろ。こんな仕打ち耐えられねぇんじゃねーの?」 「何が言いたい」 「いや、ジョルノから手ェ退くんだろって意味だよ」 「ふ」 「うわ、なんだその笑みは」 「馬鹿だな・・・相手は死人なんだ・・・死人に負ける気はしねぇな」 「・・・・っけ。そーですか。」 「どうせお前も、なんだろう?」 そして二人、目をあわす。 「「当然」」 ほんとのバトルは、ここから。 end. ディ・・・・・ディアジョル・・・・・・・・・・!!!!!!!gtbr おそろしい・・・・・ うちの2大攻めであるブチャラティ様とミスタ様に犠牲になっていただきました。 二人は当て馬。ディアボロを葬った罪悪感と、彼への恋慕を忘れるための当て馬です。 でも惚れた男の癖は、頭ではわかってても身体からはなかなか抜けていかないんですよねー。 まあ正直言うと・・・・ この二人を翻弄する話を書きたかったんですが、「この二人を翻弄できる相手がいない」って 事に気がつきまして・・・承太郎でも良かったんですが、彼にはDIO様がいるし。 なので、ジョルノと対等に付き合えそうな(身分的な意味で)ボスに参戦していただきました。 死んでるし出番ねぇけどね。 裏設定としては、ボスの正体を知る前に二人はどこかで出会っていて、 お互いの正体を知らずに恋におちて・・・ お互いの人をなかなか信じられないゆがんだ部分が共鳴するような形で。 で、戦闘になって初めてお互いが惹かれあってはいけない存在だと気がついて、 悩みに悩んだ末、ディアボロがジョルノのためにわざとレクイエムを受けた。 ジョルノのまわりの仲間を殺すことで、自分を殺さざるを得ないようにした。 そうしないと、ジョルノが自分の為に死んでしまうような気がしたから。 もうボスはオッサンだし、子供残すくらい長生きしているしね。 そしてなにより、死ぬならジョルノに殺してほしかったから。 先に逝く自分より、後に残されるジョルノのほうが苦悩することを知ってるから。 最後の最期まで歪んだボスの愛の餌食になっちゃいましたーーーージョルノは。ってな感じで。 以上!! |